前回に引き続き、表参道の「REVIVE KITCHEN THREE AOYAMA/restaurant RK」で腕をふるう井口シェフに、その独創性にあふれる料理のテクニックやアイデアについてお話を伺いました。
——メニューを作るときは、どのように野菜を選ぶのでしょうか。
その時、手に入りやすいもので組み立てるのか、作りたい料理などから野菜を選ぶのか……
井口シェフ どちらもありますね。野菜は基本的には産直で選んで仕入れています。
ファーマーズマーケットやお付き合いのある農家さんなどに、今ある野菜を提示してもらいます。
私たちのお店は夜がコース料理で少量多皿の構成なので、飽きずにどう楽しんでもらうか、ってことを大切にしています。自分自身、ひとつの美味しい料理でおなか一杯にするより、いろんな味を体験として楽しみたいという気持ちが強いので。それはレストランで食事をする醍醐味だと思います。
あと、ディナーを生野菜中心にすると、食事をした後は帰って寝るだけというような場合、消化に負担がかかりますし、加熱したほうが味が凝縮するので、基本的には加熱しますね。
——旬も大切にしていますか?
井口シェフ そうですね。ただ、世間一般の旬というより、あくまでその時に採れる美味しい野菜を旬と捉えて使うようにしています。一般的には夏が旬のトマトですが、冬に美味しいトマトができたというのであればそれも旬です。
また、発酵、塩漬けなどで、旬を延ばすことも意識しています。旬を時間差で楽しむことって、ロマンチックだと思っていて。
たとえば、ホワイトアスパラは春にしか採れない野菜ですが、乳酸発酵してピクルスなどにすると、秋の食材と出会うことができます。
その場合、秋の食材と合わせて食べられるようになった、ホワイトアスパラのピクルスも旬、と捉えることができるんです。
——なるほど、それはとても素敵な考え方ですね!
素材の組み合わせは、食感や香りの相性などで考えるんでしょうか。
井口シェフ 美味しい料理って、美味しいパーツの集まりなんです。だからこそ、ひとつひとつのパーツの正確性を大事にしています。
食材ごとにしっかり下処理をして、それぞれスパイスや塩で味付けをします。全体を混ぜたうえでバランスを取るような味付けはしません。
味が濃い部分があったり薄い部分があったりしますが、そうすると自然と食べるときに組み合わせて食べていただけます。また、食べるときに各々が好きな組み合わせをすることで食感や香りが変化して楽しめるように工夫しています。
——パーツの正確性って奥が深そうですね! 野菜の個性に合わせた調理法ってことでしょうか。
たとえば、トマトを使ってソースを作りたい場合ってどういう調理の方法があるんでしょうか。
井口シェフ 液体のソースを使うこともありますが、たとえばフリット(揚げ物)と合わせることを考えたとき、液体のソースだと均一化した味になってしまうし、食感もシナシナに柔らかくなってしまいます。
そこで固体のままフレッシュ感を活かしてソースの役割をさせる方法があるんです。
湯むきしたトマトを、ビネガーや砂糖を合わせて作ったマリネ液につけてやることで、マリネ液の浸透圧で、口に入れたときにぷちんと弾ける感じで柔らかくなります。
フリットの食感を損なわずに、固体の付け合わせでありながら、口に入れたときにソースの役割をしてくれるんです。
——果物も使いますか?
井口シェフ 使いますよ。柑橘系はフレッシュで使うこともありますが、基本的には加工します。ピクルスやマリネなど、色々なレシピを交えて使います。
——スパイスにはどのような使い方のアイデアがあるんでしょうか?
井口シェフ そうですね、僕の料理ではふりかけ的なものが多く使われているんですが、ふりかけのいいところって、かけたところだけその味になるっていう点だと思っています。
たとえばデュカという、ミックススパイスとナッツを合わせたふりかけ的なものがあるんですが、蒸した魚やソテーしたチキン、茹でた野菜などなんにでもかけられるものです。
ヨーロッパでは、スパイスはホールで乾煎りしてバリバリ食べられているんですが、僕はその食感があまり好きではなくて。低温で揚げてから、時間をかけて油を抜いたジャガイモを粉々にして、パウダーにしたスパイスを合わせて、料理に散りばめます。食感と香りが、食べるところで変わって楽しめます。
——パウダーって香りがしっかり残る感じがしますね。
井口シェフ パウダー、オイル、固体などで香りのピークが違うんですよ。お皿がテーブルに届いたとき、口に運んだとき、咀嚼したとき、飲み込んだあとの余韻。香りのピークが時間差で感じられるようにしたいです。楽しんで食べてもらいたいので!
——色々なお話を伺わせていただき、ありがとうございました!
「美味しい料理は美味しいパーツの集まり」という考え方は、目から鱗の発想でした!
野菜だけでなく、料理全般に活用できるこの考え方を活かすことで、いつもの料理が一段と美味しく・楽しいものになりそう。
伺ったテクニックやアイデアを実践したレシピ記事も今後アップする予定です。お楽しみに!
REVIVE KITCHEN THREE AOYAMA/restaurant RK
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